コミュニケーション力を高める、別のアプローチ

「これ、最初の48時間で壊しちゃいました」

そう言って、コーチングセッション中にブレスレットを見せてくれた日本人クライアント。

私たちはその頃、彼女がグローバルなビジネスの場で英語を話すときに、自分の立場を弱く見せてしまう言葉を、できるだけ減らすことに取り組んでいました。

まずは、自分がそうした言葉をいつ使っているのかに気づくこと。

そこで彼女は、自分のためにブレスレットを買いました。

「弱く聞こえる言葉」を口にしたことに気づいたら、ブレスレットを反対の手首につけ替える。

そうすることで、脳に「今の言葉に注意!」というサインを送るのです。

「どうしてそんなに早く壊れたの?」と私が聞くと、

「何度も何度も手首をつけ替えなきゃいけなかったから!」

なるほど。

ブレスレットが壊れてしまったのは残念でしたが、よかったこともあります。

彼女は、英語で話すときに、どうすればプロフェッショナルで信頼できる印象になるのかを、以前よりずっと意識できるようになっていたのです。

本人も、それをとても喜んでいました。

では、グローバルなビジネスの場では、どんな言葉に気をつければいいのでしょう?

私がクライアントによくお伝えしているのは、次の3つです。

1. “I’m sorry” ― 謝りすぎる

あなたは「I’m sorry(すみません)」を、どのくらい口にしていますか?

私はイギリス人ですが、日本人と同じように、昔から「相手に迷惑をかけたくない」という気持ちから、つい謝りすぎる傾向があります。

有名なイギリス人俳優、ジョン・クリーズが、アメリカのトーク番組「David Letterman Show」に出演したときの、面白い映像があります。

「イギリス人がトーストを一枚お願いするとしたら、こんな感じ」と、アメリカの視聴者に向けて実演するのです。

“Um, sorry… I wonder if I could be so very bold as to, uh, suggest that you might be so good as to consider the possibility that you might in due course possibly see your way clear to, um, being so very good as to pass me a slice of toast.” (えっと、すみません……もしよろしければ……その……大変恐縮なのですが……もし差し支えなければ……そのうち……トーストを一枚いただけたり……なんて……)

動画はこちら

もちろん、これはジョークです。

でも、ビジネスの場で必要以上に謝ることには、いくつかのデメリットがあります。

  • 誤解を生む
  • 時間を無駄にする
  • 信頼を失う
  • 自分自身が「悪かった」と感じてしまう

「オオカミ少年」の話は知っていますよね。

「オオカミが来た!」と何度も嘘をついたため、本当にオオカミが来たときには、誰も信じてくれませんでした。

では、たいしたことでもないのに何度も「I’m sorry」と言っていたら、本当に謝る必要があるときに、相手はあなたの言葉をどれだけ真剣に受け止めてくれるでしょう?

リーダーとしての存在感を高めたいなら、本当に相手を傷つけたり、不快な思いをさせたりしたとき以外は、“sorry”を使わないことです。

私は、日本人のビジネスパーソンが自分の英語について謝っている場面をよく見かけます。

でも、相手はあなたの英語に怒っているわけではありません。

だったら、英語について謝る必要はありませんよね。

むしろ、「英語、上手ですね」と思っているかもしれません。

きっと相手の日本語より上手なはずです。

だから、「すみません」と言いそうになったら、自分に問いかけてみてください。

「本当に必要? 相手は本当に困っている? 不快に思っている?」

謝る回数を減らしてみると、周りの人の反応がどう変わるか、そして自分自身がどれだけ力強く感じられるようになるか、ぜひ観察してみてください。

2. “I think” ― 「〜だと思います」

日本人のクライアントの多くが、英語の文章を“I think…”から始めます。

イギリス人と同じように、日本人も「断定すると相手を不快にさせるかもしれない」と考えて、はっきり言い切ることを避ける傾向があります。

だから、日本語でもよく使いますよね。

「かもしれません」
「と思います」

でも、ビジネスの場で“I think”を頻繁に使うと、自信がない、確信がないという印象につながります。

そして、それは先ほどお話ししたように、誤解、効率の低下、信頼、自分自身の気持ち

にも影響する可能性があります。

そもそも、その言葉を口にしている時点で、それがあなたの意見だということは相手にも分かります。

だから、本当に「確信はない」というニュアンスを伝えたいのでなければ、“I think”をつける必要はありません。

そして、ビジネスでは「違う意見を持つこと」は、決して悪いことではありません。

むしろ、さまざまな視点を取り入れることで、より良い解決策につながることもあります。

だから、“I think”と言っている自分に気づいたら、

「本当にこれは必要?」

と、一度確認してみてください。

3. “Perhaps,” “Maybe,” “Possibly” ― 曖昧な言葉

“Perhaps” “Maybe” “Possibly”のような言葉にも、もちろん必要な場面はあります。

でも、ビジネスでは、曖昧な伝え方が問題を生むことがあります。

以前、オンラインコーチングで、あるクライアントとロールプレイをしました。

彼女には、自分がやらなくてもいい仕事を同僚から持ち込まれたときに、もっと毅然と断る練習をしてもらっていたのです。

最初にその依頼への返答を練習したとき、彼女はこう言いました。

“Perhaps you could ask Sato-san to get the data for you?”(佐藤さんにデータをお願いしてみてはいかがでしょうか?)

そこで、彼女がコンフォートゾーンから一歩出られるように、私は「ちょっと手ごわい同僚」の役を演じました。

「でも、そんなに時間かからないと思うんだけど。あなたがそのデータを持っているのは分かっているから、やってくれない?」

すると彼女は、すぐに引いてしまい、

「分かりました。確認します」

と答えてしまいました。

そこで少しアドバイスをして、何度か練習しました。

すると、今度は自信を持ってこう言えるようになりました。

“I understand you need the data and you need it soon. Because my schedule is completely full right now, please ask Sato-san. I’m sure she’ll be able to help you faster than I could.”(データが必要で、しかも急いでいることは分かります。ただ、今は私のスケジュールが完全に埋まっていますので、佐藤さんにお願いしてください。私より早く対応してもらえるはずです

自信を持ちながら、謙虚でいられる?

このクライアントは、グローバル企業で働く、とても優秀な日本人女性です。

ロールプレイを数分練習しただけで、彼女が変わっていくのを見るのは、とても素晴らしいことでした。

曖昧な伝え方によって、

  • 誤解を生む
  • 自分の時間を無駄にする
  • 信頼を失う
  • 自分自身が嫌な気持ちになる

のではなく、

より明確に、より説得力を持って、そしてより自信を持って伝えられるようになったのです。

でも、彼女にはまだ一つ心配がありました。

「自信を持って話すと、謙虚じゃないと思われるんじゃないか」

ということです。

そして、それは彼女にとって大切なことでした。

なぜなら、謙虚さは日本文化の中で大切にされている価値観だからです。

そこで私は聞きました。

「あなたにとって、“謙虚”ってどういうこと?」

彼女はこう答えました。

「押しすぎないこと。自慢しないこと。その代わり、自分という人間と、自分が本当にできることを理解したうえで、自分にできることをすることです」

そして彼女は気づきました。

「あれ? それって、今の私がまさにやっていることじゃない?」

そう。

新しい彼女は、自信を持ちながら、同時に謙虚でいることができたのです。

大切なのは、これらの言葉を完璧に使い分けられるようになることではありません。

「今、弱く聞こえる言葉を使っていないか?」

そう、ふと立ち止まって気づけるようになることです。

今日から、この3つの言葉に少しだけ耳を澄ませてみてください。

そして、本当に必要なときだけ使う。

それだけで、あなたの英語は、今よりずっと力強く、そして今のあなたらしい謙虚さを保ったまま、相手に届くはずです。

ポッドキャストを聞く

さすが!ポッドキャストのエピソード73では、これら3つのカテゴリーについて話しています。: 日本人にありがちな”Weak words”がインパクトを下げる


よくあるご質問

 自信を持って話すために、ビジネス英語で避けたい言葉とは?

ビジネス英語で、自信や信頼感を弱めてしまいがちな表現があります。
たとえば、ちょっとしたことですぐに「I’m sorry」と謝る、必要もないのに意見の前に「I think」をつける、「perhaps」「maybe」「possibly」などのクッション言葉を多用する、といった表現です。もちろん、これらの言葉自体が悪いわけではありません。問題は、本当に必要だから使うのではなく、習慣で使ってしまうこと。そうすると、プロフェッショナルさよりも「自信がないのかな」という印象につながってしまうことがあります。

なぜ、ビジネスの場で謝りすぎてしまうのでしょう?

必要以上に謝ってしまうのは、実は「何か悪いことをしたから」というより、文化的なコミュニケーション習慣であることも少なくありません。たとえば、イギリスや日本のコミュニケーションでは、相手に迷惑をかけないように、ちょっとしたことでも謝る傾向があります。でも、些細なことですぐに「I’m sorry」を繰り返していると、誤解を招いたり、やり取りに余計な時間がかかったり、相手からの信頼を少しずつ損なったりすることがあります。そして、本当に謝る必要がある場面で「I’m sorry」と言ったときにも、その言葉の重みが薄れてしまう可能性があります。

自分のコミュニケーションを弱めている習慣に、どう気づけばいい?

まずは、自分のプロフェッショナルなコミュニケーションを弱めやすい表現を知ることです。「I’m sorry」「I think」「perhaps」「maybe」「possibly」など、つい口にしてしまう言葉に意識を向けてみましょう。話すスピードを少し落とし、「今、私はどんな言葉を選んでいる?」と意識するだけでも変わります。さらに、ブレスレットのような**目に見える「合図」を使うのもおすすめです。自信を弱める言葉やフレーズが口から出てしまったら、ブレスレットを反対の手に付け替えます。この小さな動作が、脳に「今の言葉に気づいて」というサインを送ってくれます。こうして日々の習慣をチェックしていくと、少しずつ自分のパターンに気づけるようになり、その場で言い換える力も身についていきます。

自信と謙虚さは、両立できる?

自信と謙虚さは、決して相反するものではありません。 謙虚であるということは、必要以上に自分を押し出したり、誇示したりしないこととも言えます。一方で、自分自身を理解したうえで、自分にできることをしっかりと行うことも大切です。明確かつ率直に話すことは、謙虚さを失うことではありません。自信を持って伝えながら、日本のビジネス文化で大切にされる「謙虚さ」といった価値観にも忠実でいることは十分可能です。

「謝りすぎる」「遠回しに話す」といった習慣を変えるのに、コーチングは役立つ?

はい。言葉だけでなく、言語と文化の両方を理解しているコーチと取り組むことで、自分の評価や存在感を弱めてしまっている具体的な言葉や習慣に気づくことができます。そして、そうした言葉がどんな場面で出てくるのかを把握し、より直接的で自信のある表現を練習していきます。会議やプレゼンテーションなど、実際のビジネスシーンを想定して繰り返し練習することで、「意識して言い換える」段階から、「自然に言える」段階へ。それが、ビジネス英語での自信あるコミュニケーションにつながっていきます。